PMIが難しい本当の理由とは?M&A後の課題と成功への対策を解説

皆さん、こんにちは!中小企業のM&A後の統合プロセスを専門とする、羽田中小企業診断士事務所のはださとる(PMI戦略コンサルタント)です。

羽田中小企業診断士事務所では、PMI支援を通じて「M&Aの成功」を実現するため、情報発信をしています。

今回の記事でわかること
なぜPMIはM&A成功の鍵となるのか、その本質的な理由
PMIが難しいとされる2つの理由と具体的な課題
M&Aの目的を定める5つの戦略と、成功のための対策

最近、「M&A」という言葉を耳にする機会がますます増えてきましたね。企業の成長戦略としてだけでなく、後継者不足を背景とした事業承継型のM&Aが近年急増しており、多くの経営者にとって、会社を次世代に引き継ぐための重要な選択肢となっています。

前回の記事で「M&Aは成立がゴールではない」「PMIがM&A成功の鍵」と学びましたが
実際のところ、PMIって結局何がそんなに難しいのでしょうか?

私の会社ではPMIの重要性を理解して、導入したものの…何から手をつけて良いか分からなくて困っています…

はださとる

PMIの重要性は認識されているものの、自社内のノウハウが不足している等の理由で、その取り組みはなかなか進んでいないのが現状です。

本コラムでは、なぜPMIがこれほどまでに難しいと言われるのか、その具体的な理由を解き明かし、M&Aを成功に導くためのPMIのポイントについて分かりやすく解説していきます。

目次

なぜPMIは難しい?M&A後に直面する2つの大きな課題

M&A後の統合作業であるPMIは、M&Aの成否を大きく左右する最重要プロセスです。中小企業庁が策定した「中小PMIガイドライン」でも、その重要性は繰り返し強調されています。

M&Aで有名なニデック㈱(旧名:日本電産㈱)の永守会長は「M&Aを登山に例えると、成約時点ではまだ二合目。その後はPMIという難しい作業が待っている」という言葉を残しており、PMIの重要性とその難しさを強調しています。

登山での例えは分かりやすいですが、M&Aの成約時点は二合目って…PMIの作業が大半を占めるんですね…

はださとる

そうですね!その重要性が叫ばれる一方で、多くの中小企業経営者から「具体的に何をすればいいか分からない」という切実な声が非常に多く聞かれます。

中小企業庁の調査では、PMIに関する自社内ノウハウが不足していると回答した企業が過半数を占めました。これはつまり、経営者がPMIは、結局、「何をすべきか分からない」という共通の悩みを抱えていることを示していて、この「分からない」こそが、PMIの難しさの根源にあると言えるでしょう。

令和6年2月20日 中小企業庁 財務課 中小PMI促進戦略検討会(第1回) 事務局説明資料より引用 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/pmi_sokushin/001/003.pdf

では、具体的に何がPMIをこれほどまでに難しいものにしているのでしょうか?主な理由は以下の2点に集約されます。

M&Aの目的によってごとにPMIの対応内容が大きく異なるため

PMIとは、M&Aが成立した後に行われる統合作業であり、当初のM&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために不可欠なプロセスです。つまり、M&Aが「成功」したと言えるのは、単にM&Aが成立した時点ではなく、最初に期待された目的や効果が実際に実現できたかどうかによって決まります。

このM&Aの「目的」こそが、PMIの難しさを生む第一の要因です。なぜなら、M&Aの目的は案件ごとに千差万別であり、それによってPMIで取り組むべき内容が変化するからです。目的が不明確なまま進められたM&Aは、後の統合プロセスでトラブルが発生するリスクが高まります。

M&Aのプロセスは大きく3つのフェーズに分かれます。

1.戦略フェーズ:M&Aの「目的を明確化」する出発点 
「何のためにM&Aを実施するのか?」という根本的な問いへの明確な答えが、M&Aの出発点です。

2.取引フェーズ:M&Aの目的の「実現可能性を検証」する 
売り手企業との交渉やデューデリジェンス(DD:企業の実態を詳細に調査すること)を通じ、目的の実現可能性を詳細に検証します。

3.PMIフェーズ:M&Aの目的を「実現させる」最終段階
M&A成立後、戦略フェーズで策定した目的を具体的な形にしていくのがPMIです。
M&Aの成功の第一歩は、この「目的の明確化」に尽きます。PMIはM&A成立後のプロセスですが、円滑な移行にはM&A成立前の準備(“プレ”PMI)が非常に重要ですし、目的が不明確だとPMIで何をしたらよいか分からないという状態になります。

【より詳しく知りたい方へ】 PMIの具体的な進め方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

中小企業にPMIのノウハウが蓄積されにくい現実

PMIが難しいもう一つの理由は、多くの中小企業にとって、M&A自体が頻繁に経験するものではないからです。

皆さんの周りを見渡しても、何度もM&Aを成功させている会社は、多くないのではないでしょうか?M&A経験の統計を見ると、初めてM&Aを実施した企業が205社あるのに対し、2回目はその半分以下の93社、3回目となるとさらに半分の42社へと減少していきます。

はださとる

M&Aを複数回経験する企業は非常に少なく、結果としてPMIに関する実践的なノウハウや経験値が社内に蓄積されにくいのが実情です。

先ほど示したデータの通り、PMIを実施しなかった企業にその理由を尋ねると、最も多かったのが「自社内のノウハウが不足していた」という回答でした。M&Aの経験が豊富な企業(複数回実施した企業)ほどPMIの実施率が高い傾向にあることからも、経験がノウハウの蓄積に繋がり、PMIの実施に大きく貢献すると言えるでしょう。

M&Aの目的とは?PMI設計に必要な「ゴール」の明確化

M&Aの成功は「目的の明確化」と「その実現」にかかっていると解説してきました。では、その「M&Aの目的」とは具体的に何を指し、あなたの会社をどこへ導く道しるべとなるのでしょうか?

多くの場合、M&Aの目的は「成長型」です。特に「売上や市場シェアの拡大」が最も一般的ですが、単に「売上を伸ばす」だけではPMIの具体的な行動は定まりません。重要なのは、「どの方向に、どのようにして売上を伸ばすのか」という具体的な「成長の方向性」を明確に定めることです。

この成長の方向性は、経営戦略のフレームワークである「アンゾフの製品・市場マトリクス」に「垂直統合」を加えた以下の5つの戦略に分類できます。(経済産業省中小企業庁資料参照)

M&Aで目指せる5つの成長戦略

M&Aで目指せる成長の方向性は、大きく5つの戦略に分類できます。

はださとる

あなたの会社が行ったM&A目的はいかがですか?
目的を言語化することから始めてみましょう

1.市場浸透型:既存事業をさらに強化・拡大

狙いと具体例: 今ある製品・サービスを現在の顧客層にもっと深く浸透させる。同業他社の買収で顧客・販路を拡大し、市場シェアを高めるM&Aです。

2.製品開発型:既存顧客向けに新サービスを投入

狙いと具体例: 既存顧客向けに新たな製品・サービスを提供する。新技術や特許を持つ企業を買収し、自社製品ラインナップを強化するM&Aです。

3.市場開拓型:既存事業を新たな顧客・地域へ展開

狙いと具体例: 今ある製品・サービスを未開拓の地域や顧客層に広げる。新たな地域・顧客層に強い企業を買収し、販路を拡大するM&Aです。

4.多角化型:全く新しい事業領域へ進出

狙いと具体例: 既存事業とは異なる分野に進出し、新たな収益の柱を作る。例えば、飲食業がフィットネス業を買収し、健康・ライフスタイル事業へ展開するような挑戦的なM&Aです。

5.垂直統合型:事業のサプライチェーンを強化

狙いと具体例: 自社事業の前後(仕入れ先や販売先)をグループに取り込み、効率化や安定供給を図る。製造業が原材料メーカー(川上)や販売代理店(川下)を買収するM&Aです。

まとめ:PMIの壁を乗り越え、M&Aを成功へと導くために

いかがでしたでしょうか? M&Aの「成立」は、M&Aの旅の始まりに過ぎません。ニデックの永守会長が「M&Aを登山に例えると、成約時点ではまだ二合目」と語るように、その後に待つPMIこそが、M&Aの成否を分ける険しい道のりなのです。

多くの中小企業の経営者が「PMIは何が難しいの?」と感じるその疑問は、主に以下の二つの「PMIの壁」に集約されます。

M&Aの目的が案件ごとに異なり、PMIの具体的な内容が見えにくいこと。
M&Aの経験値不足から、PMIのノウハウが社内に蓄積されにくいこと。

はださとる

これらの「壁」に直面し、「何をすればいいか分からない」と感じるのは当然のことかもしれません。
しかし、M&Aの成功は、明確な目的を掲げ、PMIを通じてそれを具現化できたときに初めて訪れます。

そして、PMIの「壁」を乗り越え、M&Aを真に成功させるために、以下の3つのポイントが重要です。

M&Aの目的を明確にし、何のためにM&Aを実施するのか明確な答えを持つこと。

M&A成立前からPMIを意識した準備を行うこと。

必要に応じて専門家を活用すること。

M&Aは、新たな価値創造と持続的な成長を目指す「未来への投資」です。この貴重な投資を実りあるものにするためには、PMIの重要性を深く理解し、計画的に取り組むことが不可欠です。

もしM&Aをご検討されている中小企業の皆様がいらっしゃいましたら、ぜひ「何のためにM&Aを行うのか」という目的を明確にすることから始めてみてください。それが、PMI、ひいてはM&A全体の成功への確かな第一歩となるでしょう。

繰り返しになりますが、M&Aの成功は”戦略的PMI”が鍵となります。
羽田中小企業診断士事務所では、PMI専門家がお客様のM&Aの目的に深く寄り添い、貴社と相手企業の特性に合わせて、最適なPMI支援をカスタマイズしてご提供いたします。

はださとる

PMIの設計・実行で不安がある方はぜひ一度ご相談ください。
また、M&Aの準備段階でも、お気軽にご相談いただけます。

羽田中小企業診断士事務所 
代表 はださとる(PMI戦略コンサルタント)

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